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ユイスマンス「さかしま」とギュスターヴ・モロー・・・The Sound Explosion

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さて、ユイスマンス「さかしま」である。

デカダンスの聖書と言われるこんな危険な小説を若い時分に読むのは考えモノだ、と今頃思う。

高校時代に澁澤龍彦先生を知ったので、当時刊行されていた桃源社版「澁澤龍彦集成」を古本屋めぐりをして買っていたのだが、第6巻が翻訳篇で、冒頭に収録されていたのが「さかしま」だ。

たちまち夢中になり、第2の人間形成期に圧倒的な影響を受けた。

デ・ゼッサントという貴族の末裔の主人公が、彼の生きていた俗臭ふんぷんたる現代(19世紀)世界を厭い、理想の過去を慕ってついには隠棲して自分の感覚と趣味をを洗練した人工的で夢幻的な美意識世界にのみ生きる、という話で、最後は昼夜さかしまに生きている不健康な生活が健康を害して、パリの俗塵世界へ、魂の平穏と救済を求めてカトリックへの帰依を示唆して終わる。

しかし、この小説を語れ、と言われてもボクには語れない。

めくるめくような知識の洪水がこれでもか~これでもか~と襲ってくるので、半分も分からない。

各章ごとにデ・ゼッサントを構成する美意識と知性が詳細に綴られるからで、そういう意味では通常の小説とは呼べない。

むしろ百科事典を読んでるような錯覚に陥るので、およそ、起承転結に慣れ親しんだ現代小説の読者にはお手上げになるかもしれないが、ひとたびその世界にはまり込むと抜け出すのが難しくなる。



昼の光と夜の燈火が事物に与える色彩の印象の違いについて詳述する章なんか、よく分からないながらも夢中になること請け合いだ。

主人公は匂いにも敏感で、自分で香水を調合する。

鼻バカのボクには香の微妙な違いなんて判らないが、AとBをベースにCを加えると小川のせせらぎが現れるし、そこにDを加えると沐浴する若い娘の裸形が現れるといった具合だ。

主人公の生活はこんな風に現実世界から隔たって、すべてを想像力の世界で生きる。



調香師は数百種類の匂いを記憶しているそうで、昔読んだ本によると、Aの匂いを嗅いだ時、具体的な情景を思い浮かべ、匂いと情景を結び付けて記憶するのだという。

デ・ゼッサントのこの辺の描写と同じだ。



閑話休題(それはさておき・・・滝沢馬琴が愛用する訓(よ)み方)、80年代にパトリック・ギュースキントという人の「香水・・ある人殺しの物語」が翻訳され、ちょっとばかし話題になった。

ボクは買ったまま、いまだに読んでない。

21世紀になって映画化されたという話なので、多分面白い小説なんだろうと思う。



デ・ゼッサントは文学ではボードレールとポーを最高位に置き、絵画ではギュスターヴ・モローとオディロン・ルドンに心酔する。

彼がモローのサロメを詳述する箇所に、口絵として「出現」(当時の訳では「まぼろし」)が挟まっていたので、ボクはこの絵のことだと思い込んでいた。

この記事を書くために念のためと思って95年に西洋美術館で開催された「ギュスターヴ・モロー」展のカタログを引っ張り出して来たら、この絵ではなく、「ヘロデ王の前で踊るサロメ」の解説に「さかしま」の一文が添えられていた。

読み直して照合したらその通りだった。

この絵はデ・ゼッサントの部屋にあったのだけど、現在はロスのアーマンド・ハマー美術館が収蔵しているのだという。

こちらは油彩で大きさも143.5㎝×104.3㎝の大作だが、実は全く同じ水彩画もあって(31cm×23.5㎝)、こちらは日本のメナード美術館にあり、展覧会ではこの絵を展示していた。

しかし、よくよく見ると細かい違いがあって、イチバン分かりやすいのはハスの花を持つサロメの右腕の衣装。


ハマー美術館(上)とメナード美術館(下)の「ヘロデ王の前で踊るサロメ」


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デ・ゼッサントがもう一枚所有し、ユイスマンスの前者ほど長い文章ではないが、分析が加えられた「出現」(「まぼろし」)とモロー展のカタログ。



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羨ましい~と思ったのは、気に入りの詩を編んで、気に入りの活字を手に入れて(活字への薀蓄も半端じゃない)特注の紙に自分のために1部だけ印刷し、念入りな装丁をする箇所。

本好きなら、デ・ゼッサントのような大金持ちになりたい~と切実に思わせる。



本文が169ページしかないのに訳注が46ページもある。

博学の巨人、澁澤先生でなければ訳せなかったかもしれない。

訳注からタメになる話を2つ拾って終わりにする。



17世紀のフランス、ベネディクト会修道士ペリニョン師がシャンペンの発見者だと言われる。偶然の結果らしいが、のちに「回想録」を発表してシャンペンつくりの秘伝を公開したのだという。



15世紀の人ヤーコブ・シュプレンガアはケルンのドミニコ会修道士。酸鼻を極めた異端糾問所の処罰を規定した「巫女之鉄槌」の著者。この書が、妖術裁判の最高権威書とされていた。



「さかしま」の写真は62年桃源社版。借り物写真です。





オチがなんだか不穏になったので、心休まる曲を聴きましょう。

My Baby Went Away With The Midnight Train です。

Sound Explosion は91年~97年まで活動していたギリシャ、アテネのバンド。

2000年代初めに再結成されて現役。

https://youtu.be/Cv3RZsboTpc





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マイナーな60年代ビートミュージックと駄洒落、読書レビュー。

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