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レオ・ペルッツ「夜毎に石の橋の下で」・・・The Other Half




前回「ボリバル伯爵」を紹介したが、この作品のほうが断然面白い。

こんなに面白い小説が、2012年、国書刊行会から翻訳出版されるまで、未訳だったとは驚きだ。


作者ペルッツはプラハ生まれのユダヤ系作家で、18歳でウィーンに移住。19世紀後半に生まれ、20世紀半ば過ぎに亡くなっている。

ナチの時代はパレスティナに亡命して、しぶとく生き延びた。

原書はドイツ語で書かれ、フランクフルトの小出版社から53年に刊行されている。





物語は、16世紀末から17世紀初めのプラハの街を舞台にした15の断章からなっていて、それぞれに独立した掌編としても読める。

だからと言って、連作小説と勘違いされては困る。

ばらばらに配置された物語が、読み終えると同時に緊密に結びつき、新たな世界像を結ぶのだ。


神聖ローマ帝国の首都でもあったこの街は、中欧最大のユダヤ人街があったそうで、物語はユダヤ人と、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世を中心に展開する。

歴史的事実、歴史的人物が多数配置されて動き回るが、巧妙に改変されて現れてくる。


小説冒頭の断章は、ユダヤ教の高名なラビ、レーヴが登場する。

ユダヤ教の秘儀「カバラ」に通じた人物で、マインリクの小説「ゴーレム」にも登場する。

カバラの秘儀を実践して、死者の言葉を聴くのが発端だ。




少し横道にそれる。

カバラは、秘教哲学としてながく一部のラビにのみ受け継がれていた。

キリスト教世界のオカルティストが、カバラの思想に決定的な影響を受けるようになるのは16世紀になってからだ、とボクの持っている本には書いている。

広くオカルト世界に属する錬金術では、図像が重要な意味を持つが、カバラの書(ヘブライ語で書かれていた)で図像が使われるのはとても稀だというので、写真を載せる。





















発端の断章からしてお分かりのように、魔術的な世界が連なっていくのだ。


小説の重要人物であるルドルフ2世その人が、バイエルン王のルートヴィヒ2世と並んで、美に耽溺して破滅的な人生を送った「狂王」として有名な人物だ。

余りの浪費で国家財政が傾き、錬金術師を登用して金を生み出そうとして失敗している。

こんな逸話も断章の中に紛れ込んでいる。


アルチンボルドが描いた有名な肖像。

果物で描いただまし絵だ。




















この絵を見るとボクは歌川國芳のだまし絵を思い浮かべてしまう。



















時代が下るので、国芳がアルチンボルドの影響を受けたのだ、という馬鹿なことを言いだす輩がいるかもしれないが、阿保。

人種や文明に関係なく、人間である以上、同じ発想が登場してくるのは自明の理(ことわり)だ。








タイトルにもなった「石の橋」は実在の橋で、プラハの街の中心部にあり、この時代にはそう呼ばれていたらしい。

現在は「カレル橋」と名付けられているそうだ。





新たな世界像を結ぶ、と最初に書いた。


ボクの感想を言うと、こういうことだ。


冒頭、ユダヤ人街で疫病が流行り、ラビ・レーヴは姦通の罪を犯した者がいるせいで神がお怒りになっているのだと死者の口から知る。

カバラの秘術を用いても名乗り出る者がない。

ラビははたと気づいて、石の橋の下で咲いている赤い薔薇にしっかり絡みついているローズマリーの白い花を引っこ抜く。

夢の中で、皇帝ルドルフ2世と実在した大富豪のユダヤ人の人妻が毎夜愛し合う魔術でもあったわけだ。

14章で、天使アサエルがラビの元に現れることで、この小説は、いったんは人はなぜ罪を犯してまでも人を愛せずにはいられないのか、というテーマが現れてくるように思われる。

天使アサエルは、旧約偽典「エノク書」に現れる天使で、美しい人間の娘に恋焦がれたことで知られている。

ところがだ、最後の15章はいきなり時代が飛んで19世紀末、この物語を語って聞かせる大富豪の末裔と、それを聞く「わたし」、作者の話になり、流れゆく「時」の変化が前面に出てくるように思われるのだ。

まるで別の高い次元から、時の中で生き死にする人間たちの物語を眺める目、歴史の目とも言ってもいいし、天使の目と言ってもいい、を感じるのだ。















ロスのバンドで Other Half。

Mr. Pharmacist が有名だが3枚目の I Need You(67年)も捨てがたい。

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コメント

No title

うむ!shoさんは、流石だなぁ!僕は一生読まない本だ(笑)!ただ、錬金術やカバラに関した、ややオカルテイズムは好きですけどね。

それよりも北斎のだまし絵は知らなかったですねー!写楽の正体は?に関連する本は沢山、読んだけど(笑)。

果実のだまし絵は仮面ライダーの怪人で出てきそうだ!

No title

umeさん、おっと~あぶないアブナイ~そのひと言で間違いに気づいたよ。
北斎じゃなくて国芳。
大勢の人眼に触れる前に訂正出来て良かった(笑)

一生読まない??
こんな面白い本を読まないと、あの世に行ってから後悔しますよ~

仮面ライダーはほとんど見なかったので分からないんだけど、似たような怪人造形があったんですね~

ナイス有難うございます~

No title

うわー、めちゃくちゃおもしろそうです。
一時期渋澤龍彦さん経由で、カバラとか錬金術とかがらみの小説を読んでいたことがあります。この頃の小説のいかがわしさ、結構好きなんですよね。
この本もとてもおもしろそう。
そして、アルチンボルドと国芳、どちらの絵も見たことあるのに、結び付けて考えたことがありませんでした。
「同じ発想が登場してくるのは自明の理」というのいいですね。私もそう思います。
歌は、本と関係があるんでしょうね。バラとローズマリーのからまりにかけてあるのかな~。

No title

Mymbleさん、久しぶりに耽読した小説です。
2日に分けて読んだけど、トータルすると6時間ちょっとかな。
一気読みもできますよ。

カバラも錬金術もボクも全部渋澤さんから教わりました。一緒だ~

社会差があるので時間的な違いが生じるけど、条件さえ満たせば、同じ発想が生まれてくるのは当然ですね。
そうでなかったら、ホモ・サピエンスじゃないし、地球人と火星人くらい異なる発想は、どんな文明間でもあり得ないです。

一応は愛の物語なので、この曲を選びました~(笑)

ナイス有難うございます~

No title

おぉ('∀`) 面白そう~♪
神秘思想とか大好き~♪♪新プラトン主義やカバラの話の中には
面白いのが沢山あるわよね~♪国書刊行会のフルカネリのは
理解できなかったけど、これも難しいのかしら(^_^;)
借りて読んでみよう♪
アルチンボルドのこのシリーズはユニークでいいわね♪
何故最後にOther Halfかと思ったけど、この曲も好きだから
いい事にしよう~('∀`)

No title

joeyさん、全然難しくないですよ~
うんちく話は出てきません。
理解するには多少の背景を知っておいた方がいいと思ったので、色々解説しただけです。

ルドルフ2世が登場してきたとき、真っ先に思い浮かべたのがこの絵でした。
この絵のことも高校時代に渋澤さんから教わったんですよ~

国書から出ているそれは「大聖堂の秘密」って本かな??
高価な本だけど、読んだんだ~!!

一応愛の物語だからね。タイトルだけで選んだんです(笑)

ナイス有難うございます~

No title

The other halfは、しばしばフリスコで演奏していますが、LAのバンドです。
ギターのランディ・ホールデンは、元Sons of adamでしたが、やはりLAのバンドで、サンフランシスコの常連でした。

レオ・ぺルッツの初めての邦訳は国書の幻想文学大系「第三の魔弾」かな?前川道介氏が紹介したのですね。ロッテンシュタイナー(オーストリアのSF研究者)の本でひどく褒められていて、初めて読んだら面白くて、と言っていたので、日本ではマイナーな存在だったのでしょう…

個人的に待望していたベン・ヘクトの「悪魔の殿堂」が何故か中止になり、差し替えでレオ・ぺルッツが選ばれたので、口惜しくて?読んでない…

ただ、イアン・フレミングが褒めた英訳Little Appleというスパイ・スリラー的作品があって、それは読んでみたい、でも翻訳はまだのようだ…

No title

>ロスで結成しシスコで活動したとありますね

それは、All music guideのRichie unterbergerの記載からWikiに転記されているようですが、

そのリッチーの著書では、LAのバンドだが、SFでの演奏が多かったため、SFのバンドと誤解されている、と訂正されています。

LAのライヴ・フォト↓
http://www.randyholden.com/windows/wndw14.htm

それにLAのTVドラマにも出演していたし…

Loveの未発曲をカヴァーしたり、深いLAコネクションがあります。

まあ、ランディーは、Blue cheerに短期参加していて、昔はそれが有名だったので、そのせいかも…

No title

> sho*ha*ng*5さん
I need you 拝聴しました。
ビートルズのカバー曲かと
思ったんですが同名異曲なんですね。
イントロパートがT・レックス「20世紀少年」に
影響した?なんて....
紹介ありがとうございます。

No title

面白そうな小説ですね。多層的な話になっているんですね。
読んでみたいです。
曲もカッコいいです!

No title

え~?!これの方がもっと面白いの?前作も相当面白そうなのに?
カバラに関しての本・・・持ってる(笑)
ついつい、持ってる(^^ゞ
ノストラダムスもカバラで予言していたんですよね。
こういうのもだまし絵も、好きな世界です♪

No title

ゆういっちゃんさん、保証付きの面白さです。
読み手にとって、色々解釈の異なる小説ですね。

ナイス有難うございます~

No title

Irisさん、前作よりもこちらの方がもっと面白いです。
ひとつにはプラハという馴染みのない都市が舞台。
また馴染みのないユダヤ人世界が舞台。
馴染みない歴史が舞台。

それなのに展開する物語は、サーカスのような色に染められていて、誰にでも楽しめます。

カバラは、実際は難しくてよく分からないですね。

ノストラダムスの予言のことは知らないけど、16世紀以降、オカルティストはカバラ抜きには語れなくなったそうなので、当然勉強してると思います。

ナイス有難うございます~

No title

こんばんは( ^∀^)
面白そうな本ですが、僕は2枚のだまし絵が
興味があり楽しいですね~^^
特に國芳の絵はウケますね(笑)

No title

ケビンさん、国芳の絵は傑作ですよね。
よく、こんなことを考えつくものだと思います。

ナイス有難うございます~

No title

二枚の騙し絵が面白いですね。その本も面白そうですね。

カレル橋って、今ではすっかり観光名所になっているプラハで一番有名な橋ですよね。昔は、単に「石の橋」と呼ばれていたとウィキにあります。

この曲は、カリフォルニアのバンドの曲と言うより、なんかイギリスの香りがします。気のせいかな。

No title

yan_yanさん、この橋は観光名所になってるんですか~知らなかった。
訳者解説によれば、単に「石の橋」または「ユダヤの橋」と呼ばれていたそうです。

2枚のだまし絵は初めて??
2枚とも有名なんだけど・・・

この当時のUSのティーンバンドは誰もが英国バンドをお手本にしたんです。
ビートサウンドはUKで生まれ、ビートルズを通じてUSに上陸したから。

掛け値なしに面白い本です。
語り口は童話を読んでるような感じです(訳文がこなれてます。「ボリバル伯爵」のときはぎくしゃくしてたんだけど)。
ナイス有難うございます~

No title

カバラ…?ユダヤ教関係なんですね?ん~この辺は、全く読んでないです>_<帝都物語で陰陽道とかでてきたくらい(・・;)
今は、時間がないから、時間ができたら、読んでみたいなぁ。
曲は、短いですね(笑)ガレージ感がカッコいい🎵

No title

tomozoさん、帝都物語も面白かったですよね。
カバラはユダヤ教の陰陽道だと思えばいいです。
お勧め本です。

こういう勢いのある演奏って好きなんですよ~

ナイス有難うございます~

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マイナーな60年代ビートミュージックと駄洒落、読書レビュー。

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